3月のライオン

 だんだん人間らしくなってくる(本当にそうなのだ)主人公・桐山零だが、今回は漸く人を想う事、そこから得られるものがたくさんあって、強くなれる事を、彼は考えるようになる。
 一つは、前巻でクラスにおいていじめられている事を告白した、ひなについてである。彼女は友人を助ける為にした行為によって、いじめの矛先が自分に向いてしまっている。負けずに学校にも修学旅行にも参加する彼女の姿に、零は確かに、昔の孤立した自分が救われるような気がして、その恩を返していきたい、と想うのだ。(高校生の癖にプロ棋士で、下手な大人より金持ちである所為で、初めは金で弁護士を呼んで解決しようなんていうズレっぷりも発揮するが……。)
 もう一つは彼の”心友”、二階堂晴信である。初めは暑苦しくて変な奴、と想っていたのだが、初めて彼と自分の共通点を自覚し、彼の気持ちを背負って将棋を指す事になる。二階堂は幼い頃から先天的な重度の糖尿病を患っており、食事は淡白なものしか摂れず、スポーツも勿論出来ない。弱い人間として誰にも扱われない、唯一自分が頑張っただけ強くいられるのが将棋だったのだ。零は同い年で、自分に対して手加減は絶対してこない、最高のライバルであり、友人である。そんな二階堂が新人戦で、準決勝で負けた相手と、零は決勝で対戦する。永世新人王の称号も近いとされるその相手だが、二階堂は千日手(同じ手順の繰り返しとなって、指し直しになるルール)となった試合中、体力が続かずに試合中倒れて負けてしまったのだ。二階堂に対して、自分が決め手を欠くばかりに、先延ばしにして勝つという戦法を選んだその男を、零は許さなかった。
 負けた友人の分まで、なんて事を零は考えていたのではない。彼は友人を棋上だけで勝負させなかった相手を、棋上で殺しにかかったのだ。むき出しの気持ちで、彼が新人王を獲得する様が素晴らしかった。

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