ブギーポップ
珍しく、今回はブギーポップは誰も殺さない。それは、殺す価値がない、と言うべきか、殺さなくても良くなった、と言うべきか。ブギーポップは、少女達の実しやかな噂では死神とされているのだが、本当の所は殺すべきは世界の敵たり得るものだけだと考えており、世界の敵となり、その方向を修正する事が不可能な者にだけ、自動的に死をもたらす存在である。そこには主体性や感情はない。
今回の世界の敵候補は、タイトル通りの”歪曲王”である。人の心には、あの時ああしておけばよかった、でもそう出来ないままに取り戻せなくなった、という歪みが存在する。それは愛の告白だったり、友人への謝罪だったり、人によって実に様々である。歪曲王は、ムーンテンプルと呼ばれる塔に集められた人々の中にある歪みを増幅させ、その歪み・苦しみを黄金に変える事を目的としている。それは幻覚のような世界の中で、後悔の念を持つ人間の望む状況を作り出し、輝けるものに変える事だ。人はその幻覚の甘さに、現実はどちらなのか解らなくなってしまう。これこそが歪曲王の世界の敵たり得る原因だったのだが、歪曲王は自分を悪だと自覚しているという弱さも持っていた。これは歪曲王自身にも心の歪みが存在していた為である。これは弱さだが、世界の敵としての弱さ、という意味である。つまり、彼はまだ世界の敵ではないし、自分に弱さのある限り、完全なる世界の敵にはなり得ない。ブギーポップはその事を指摘、確認し、また闇の中へと去っていく。
あらましはどうあれ、本作では多くの人々が光を見付ける。それは歪曲王の言う黄金ではないが、苦しくとも、一つの解決と希望となるものなのだ。